トランス脂肪酸

トランス脂肪酸は脂質を構成する成分である「脂肪酸」の一種です

脂質はいくつかの物質で構成されており、脂肪酸はそのなかの成分の一つです。脂肪酸はさらに、動物性の脂肪に多く含まれる「飽和脂肪酸」と植物性の脂肪や魚の脂肪に多く含まれる「不飽和脂肪酸」に分けられます。トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸に属します。また、トランス脂肪酸は天然のものと、工業的に生成されるものに分けられます。牛や羊などの反すう動物の体内では、胃の中の微生物のはたらきでトランス脂肪酸がつくられます。そのため、牛肉や羊肉、牛乳などの乳製品には天然のトランス脂肪酸が含まれています。一方、工業的なトランス脂肪酸は液状の不飽和脂肪酸を固形の飽和脂肪酸に加工する際に副産物として発生します。また、植物や魚を原料とする油から臭いを取るために高温で処理した際にも、微量のトランス脂肪酸が生じることがあります。脂質はヒトの体に必要な栄養素ですが、トランス脂肪酸は食事から摂取するべき必要な脂質ではありません。

工業的なトランス脂肪酸はマーガリンやファットスプレッド、ショートニングなどの植物性油脂に比較的多く含まれています。工業的なトランス脂肪酸は、常温では液体の植物性油脂や魚由来の油に水素を添加し、半固形または固形の油脂に加工する「水素添加」という過程において生じます。マーガリンとバターの違いをよくご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、牛乳から作られるバターと異なり、マーガリンは液体の植物性油脂から作られています。そのため、製造過程で水素添加が行われたマーガリンなどの製品にはトランス脂肪酸が含まれているのです。

食用油が原材料として使われている食品にもトランス脂肪酸が含まれている可能性があります。ただし、食品の原材料としては具体的な油の名前ではなく「植物油脂」または「植物油」「食用植物油脂」などと書かれている場合もあります。気になる場合はパッケージを確認してみましょう。

※マーガリンとファットスプレッドはどちらも「マーガリン類」に属する食品です。油脂含有率が80%以上のものをマーガリン、80%未満のものをファットスプレッドと呼びます。ショートニングは植物や動物性の油脂を原料とする練り込み専用の固形油脂です。ほぼ無味無臭で、パンやビスケットの口当たりを良くするために使われます。 

牛や羊などの反すう動物の胃の中では、微生物のはたらきによってトランス脂肪酸が生成されます。そのため牛肉や羊肉には微量のトランス脂肪酸が含まれています。肉類に含まれているのは天然のトランス脂肪酸で、食品を加工する過程で生じたトランス脂肪酸とは異なる性質のものです。

トランス脂肪酸の過剰摂取による悪影響について

トランス脂肪酸の過剰摂取は肥満の原因になります。トランス脂肪酸など、脂質は同じくエネルギー源である炭水化物やたんぱく質と比べるとカロリーが高いことが分かっています。炭水化物とたんぱく質のカロリーは1g当たり約4kcalなのに対し、脂質は1g当たり約9kcalです。

摂取カロリーが消費カロリーを上回ると、エネルギーとして使い切れなかった分は脂肪として体内に蓄積され、肥満につながります。脂質は炭水化物やたんぱく質よりもカロリーが高いため、肥満に結び付きやすいのですね。肥満にならないようにするためにも、日頃からトランス脂肪酸をはじめとする脂質の摂取量を意識しておきましょう

工業由来のトランス脂肪酸の摂り過ぎは、冠動脈疾患につながるリスクがあります。冠動脈疾患は心臓に十分な血液が供給されないために生じる病気で、狭心症、心筋梗塞がこれに該当します。狭心症は心臓に血液を送る冠動脈が細くなり、血液が流れにくくなることで起こる病気です。血液の流れが悪くなると心臓が血液不足になり、一時的に酸素が足りない状態に陥るため、結果として胸の痛みなどの症状が現れます。初期症状はほとんどありませんが、心筋梗塞に移行しやすい危険な状態といえます。心筋梗塞は心臓が酸素不足になり、心筋細胞が壊死(えし)する病気です。心筋細胞とは心臓の筋肉である心筋を構成する筋細胞で、これが壊死すると突然激しい胸の痛みに襲われ、場合によっては死に至ることもあります。研究の結果、工業由来のトランス脂肪酸を最も多く摂取している群は、最も摂取量が少ない群に比べ冠動脈疾患を発症するリスクが1.3倍であったことが分かっています。

トランス脂肪酸は動脈硬化を進行させることが分かっています。トランス脂肪酸にはLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増やし、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を減らすはたらきがあります。LDLコレステロールには肝臓でつくられたコレステロールを全身へ運ぶ役割があり、増え過ぎると動脈硬化の原因となります。一方、HDLコレステロールは増え過ぎたコレステロールを回収し肝臓へ戻すことで、動脈硬化を抑制します。

トランス脂肪酸は動脈硬化を進行させるLDLコレステロールを増やし、抑制するHDLコレステロールを減らすため、冠動脈疾患のリスクを高めるといわれているのですね。こういった病気を発症するリスクを高めてしまわないためにも、普段からトランス脂肪酸の摂取量には注意しておきたいところです。ただし、現時点で血中の脂質に影響して冠動脈疾患を引き起こすことが分かっているのは工業由来のトランス脂肪酸だけです。肉類や乳製品に含まれる天然の脂肪酸については動脈硬化との関連性が認められていません。そのため食品に含まれる成分をよく知り、賢い選択をすることが大切です。

国内では1日に摂取すべきトランス脂肪酸の量は定められていません。

その理由として、飽和脂肪酸と比べると健康への影響が小さいこと、日本人の摂取量の実態が十分に把握されていないことが挙げられます。しかし、世界保健機関(WHO)をはじめアメリカなどのいくつかの国や機関では、トランス脂肪酸の摂取量を総摂取カロリー(総エネルギー摂取量)の1%未満に抑えることが推奨されています。日本人が1日に摂取するカロリー(エネルギー量)の平均は約1,900kcalであり、この場合、1%に相当するトランス脂肪酸の量は約2gです

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